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千葉地方裁判所 平成3年(ワ)986号 判決 1994年1月18日

原告

岡村達子

ほか一名

被告(甲事件被告)

牧山正弘

被告(乙事件被告)

平野操

ほか二名

主文

一  被告らは各自、原告らそれぞれに対し、金二八四万五四六九円及びこれに対する平成二年四月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告牧山は、原告らそれぞれに対し、金一一三八万一八七七円及びこれに対する平成二年四月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らの被告らに対するその余の各請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その三を原告らの負担とし、その五を被告牧山の負担とし、その余は被告牧山を除くその余の被告らの負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告らそれぞれに対し、一三一〇万円及びこれに対する平成二年四月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告東京海上保険を除くその余の被告らは各自、原告らそれぞれに対し、八一三万五四四五円及びこれに対する平成二年四月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  1及び2につき、仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告の身分関係等

原告達子は、亡岡村孝一(以下「亡孝一」という。)の妻であり、原告健一郎は亡孝一の子である。原告らは、亡孝一が本件事故によつて取得した損害賠償請求権を二分の一宛相続した。

2  交通事故の発生(以下「本件事故」という。)

(一) 日時 昭和六二年一一月八日午後二時五四分ころ

(二) 場所 千葉県市川市塩焼三丁目一〇番七号先路上(以下「本件事故現場という。)

(三) 第一加害車 普通乗用自動車(以下「牧山車」という。)

右運転者 被告牧山

(四) 第二加害車 普通貨物自動車(以下「日本航運車」という。)

右運転者 被告平野

右保有者 被告日本航運

(五) 被害車 普通自転車(以下「孝一車」という。)

右運転者 亡孝一

(六) 本件事故現場の状況 本件事故現場は、市川市宝一丁目方面から市川市富浜三丁目方面に通じる道路(以下「孝一道路」という。)と、市川市塩焼二丁目方面から市川市末広二丁目方面に通じる道路(以下「牧山道路」という。)が交差する交差点(以下「本件交差点」という。)上である。本件交差点は、信号機による交通整理は行われていないが、右両道路とも常時駐車禁止となつており、孝一道路上には一時停止の交通標識と白線による停止線が設置されている。

(七) 態様 被告牧山が牧山道路上を市川市塩焼二丁目方面から市川市末広二丁目方面に向けて牧山車を運転して、本件交差点にさしかかつたとき、牧山道路上の交差点手前右側部分に駐車していた日本航運車を認めたが、そのまま直進したところ、孝一道路上を市川市宝一丁目方面から市川市富浜三丁目方面に向けて、直進してきた孝一車の発見が遅れ、急ブレーキをかけたが、間に合わず、本件事故現場で右両車が衝突した。

3  責任原因

(一) 被告牧山の責任

被告牧山は、牧山道路上を、牧山車を運転して、信号機のなく、かつ、本件交差点手前右側部分に駐車している日本航運車のためにより見通しの悪くなつている本件交差点に差しかかり、直進するに際し、右方の安全確認を十分しないまま同交差点に進行した過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条に基づき、後記の損害を賠償する責任がある。

(二) 被告平野の責任

被告平野は、本件交差点直前の牧山車進行方向右側道路の駐車禁止場所に日本航運車を同道路中央近くまでふさぐ形で駐車させたため、日本航運車が被告牧山の本件交差点への進入に際し、同人の右側の視界を遮り、さら被告平野の右違法駐車は同時に、被告牧山から見て同交差点の右側道路から同交差点に孝一車で進入しようとした亡孝一の左側道路に対する視界を遮る結果を生じた。被告平野は、右駐車をするに際し、本件交差点に進入しようとする他の車両の視界を妨げる結果となることを予見し、その結果を回避する義務があるにもかかわらず、これを怠り、本件交差点の直前の駐車禁止場所に駐車した過失により本件事故が発生したものであるから、民法七〇九条に基づき、後記の損害を賠償する責任がある。

(三) 被告日本航運の責任

被告日本航運の責任は、本件事故当時、日本航運車を保有し、これを自己のために運行の用に供していた者であるところ、その従業員である被告平野が前記のとおり、違法駐車をして、本件事故が発生したものであるから、本件事故は、日本航運車の運行によつて生じたものであり、従つて、被告日本航運は、自賠法三条に基づき、後記の損害を賠償する責任がある。

(四) 被告東京海上保険の責任

被告東京海上保険は、被告日本航運との間で、日本航運車を被保険自動車とし、本件事故時を保険期間内とする自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)を締結していたのであるから、被告日本航運が原告らに対して賠償すべき損害について、二六二〇万円の限度(死亡による損害につき、二五〇〇万円、死亡に至るまでの傷害による損害につき、一二〇万円)で、自賠法一六条一項に基づき、原告らに対し、損害賠償額を支払うべき義務がある。

4  損害

(一) 亡孝一の受傷及び死亡

亡孝一は、本件事故により、頭蓋骨骨折、急性硬膜外血腫、脳挫傷、右第二ないし第一〇肋骨骨折の傷害を受け、昭和六二年一一月八日、新行徳病院に入院したが、遷延性高度意識障害(いわゆる植物人間)のまま、同病院で、平成二年四月二二日に死亡した(右入院期間八九七日間)。

(二) 亡孝一の損害

(1) 治療費 一一万一三六二円

治療費は、受傷から死亡に至るまで、亡孝一の所属していた訴外日本航空健康保険組合日航関連会社支部(以下「訴外保険組合」という。)が総額一〇一六万〇九一〇円を負担し、亡孝一は一一万一三六二円を負担した。

(2) 付添看護費 九三〇万三九三六円

亡孝一は、入院から死亡するまで、所謂植物人間の状態であつたため、担当医師から看護を必要とする意見書が出され、看護料として九三〇万三九三六円を支払つた。

(3) 患者輸送費 一三万二五〇〇円

亡孝一は、昭和六三年一二月二三日、診察のため、東京大学医学部付属病院に一日入院し、更に、平成元年五月一二日から同年八月三〇日までの間、精密検査のため入院した。右搬送のため、一三万二五〇〇円を支払つた。

(4) 入院雑費 一〇七万六四〇〇円

亡孝一は、右入院期間八九七日については、一日当たり一二〇〇円、計一〇七万六四〇〇円の雑費を要した。

(5) 入院慰籍料 五〇〇万円

亡孝一は、所謂植物人間の状態で八九七日間入院したので、右金額が相当である。

(6) 亡孝一の死亡慰籍料 一五〇〇万円

(7) 逸失利益 八三五一万二一一二円

<1> 六〇歳定年時迄の逸失利益 三七一五万四七〇七円

死亡時四八歳

昭和六二年の収入額九四四万一一五二円を基礎収入とし、生活費控除率を三割として、算出すると右金額になる。

<2> 退職後就労年齢六七歳まで 二四二八万八七一〇円

六〇歳から六七歳までの賃金センサスの平均六二六万三五二九円を基礎収入とし、生活費控除率を四割として、算出すると右金額になる。

<3> 定年時退職金 二二〇六万八六九五円

亡孝一が定年まで勤務した場合の推定退職金は、三七九三万六一〇〇円である。原告らは、平成二年七月一二日死亡退職金として、一三九七万〇六〇〇円を受領した。右推定退職金に対する中間利息五パーセントは一八九万六八〇五円であり、右推定退職金から中間利息及び死亡退職金を控除すると、右金額となる。

(8) 物損(自転車の修理代) 三〇〇〇円

(三) 原告らの固有損害

(1) 葬儀費 一〇〇万円

(2) 慰籍料 一〇〇〇万円

本件事故によつて、原告らが被つた固有の慰籍料は、それぞれ、五〇〇万円が相当である。

(四) 右合計金額 一億二五一三万九三一〇円

5  過失相殺

本件事故は、亡孝一の自転車対普通自動車及び違法駐車車両の事故であり、亡孝一の過失割合は四割が相当である。

したがつて、過失相殺後の損害額は七五〇八万三五八六円となる。

6  損害の填補

原告らは、牧山車に付保されていた自陪責保険から保険金二五〇〇万円の支払いを受け、また、被告牧山が締結していた任意保険の保険会社である大東京火災海上保険株式会社(以下「大東京保険」という。)から保険金一一四七万二六九五円を受け、右合計三六四七万二六九五円を右損害賠償額に充当したため、その残額は三八六一万〇八九一円となる。

7  弁護士費用の合計額 三八六万円

原告らは、原告ら訴訟代理人に本件訴訟の提起及び追行等を委任し、弁護士費用の支払いを約束したが、右費用のうち三八六万円が本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

8  原告らの損害賠償債権額の合計 四二四七万〇八九一円

原告らの損害賠償債権合計額は、右金額となるところ、原告らの損害賠償債権額は、各二一二三万五四四五円(円未満切捨て)となる。

9  結論

よつて、原告らは、右損害賠償債権のうち、被告牧山及び同平野については民法七〇九条に基づく損害賠償として、同日本航運については自賠法三条に基づく損害賠償として、各自原告らそれぞれに対する二一二三万五四四五円、被告東京海上保険については自賠法一六条一項に基づく損害賠償額の支払義務の履行として、原告らそれぞれに対する一三一〇万円及びこれらに対する平成二年四月二二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告牧山の認容

1  同1の事実は不知

2  同2の事実は認める。

3  同3の(一)の事実は認める。

4  同4について

(一)の事実は不知であり、(二)及び(三)の損害額の主張は争う。

原告らの損害額の主張には、既払部分の損害主張がなされていなかつたり、あるいは単純な計算違等がある。損害賠償額を算定するには、まず損害金額を全部算定し、その後に過失相殺を行い、更に既払金の控除を行わなければならない。

5  同5及び6について

有利に援用する。既払金の合計額は、五九二九万四二八七円である。

6  同7の損害額の主張は、争う。

三  請求原因に対する被告平野及び同日本航運の認否

1  同1の事実は不知

2  同2の事実は認める。

3(一)  同3の(二)について

被告平野が、本件交差点直前の牧山道路右側の駐車禁止場所に日本航運車を同道路中央近くまでふさぐ形で駐車させたことは、認めるが、本件事故は被告牧山と亡孝一の過失が競合して発生したもので、被告平野には本件事故と相当因果関係のある過失はない。

(二)  同3の(三)について

被告平野が被告日本航運の従業員であつたこと、被告日本航運が日本航運車を保有していたことは、認めるが、その余は争う。本件事故は、孝一車と牧山車とが交差点で出会頭に衝突して発生したもので、日本航運車の運行によつて発生したものではない。従つて、日本航運車については、自賠法三条に基づく運行供用者責任は発生しない。

4  同4について

(一)の事実は不知であり、(二)及び(三)の損害額の主張は争う。

5  同5及び6について

有利に援用する。

6  同7の損害額の主張は、争う。

四  請求原因に対する被告東京海上保険の認否及び主張

1  同1の事実は不知

2  同2の事実は不知

3  同3の(四)について

被告東京海上保険が日本航運車を被自動車とする自賠責保険を締結していたことは、認めるが、その余は争う。本件事故は、孝一車と牧山車とが本件交差点で出会頭に衝突して発生したもので、日本航運車の運行によつて発生したものではない。従つて、日本航運車については、自賠法三条に基づく運行供用者責任は発生しないので、これを前提とする自賠法一六条の責任も発生しない。

4  同4について

(一)の事実は不知であり、(二)及び(三)の損害額の主張は争う。

5  同5及び6について

有利に援用する。

6  同7の損害額の主張は、争う。

五  抗弁

1  免責の主張(被告日本航運、同東京海上保険)

仮に日本航運車の運行起因性が認められた場合でも、本件事故は亡孝一と被告牧山の過失が競合して発生したもので、被告平野には本件事故と相当因果関係のある過失はなく、かつ、日本航運車には構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたから、日本航運車の運行供用者には自賠法三条但書の免責事由が存在する。

2  過失相殺(被告ら)

本件事故の発生については、亡孝一の側にも注意を怠つた過失があるものというべきであり、原告らの損害額の算定にあたつては四割を超える割合の過失相殺がなされるべきである。

3  既払金(被告牧山)

本件事故に関して、これまでの既払金の合計額は、五九二九万四二八七円である。

六  抗弁に対する認否

1  同1は否認する。

2  同2について

本件事故の発生については、亡孝一の側にも注意を怠つた過失があつたことは争わないが、その過失割合は四割を超えるものではない。

3  同3について

原告らが認めている額以上の既払金は否認する。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

(以下、成立に争いのない書証及び弁論の全趣旨により成立の認められる書証については、いずれもその旨の記載を省略する。)

一  原告らの身分関係等

1  請求原因1の事実は、甲第一号証の四九ないし五一及び弁論の全趣旨により認めることができる。

2  従つて、原告らは、後記の被告らに対する損害賠償請求権を各二分の一宛取得した。

二  本件事故の発生

請求原因2の事実は、原告らと被告東京海上保険を除くその余の被告との間においては、争いがなく、被告東京海上保険との間においては、甲第三号証の一、五、六、一〇ないし一二、一五により、右事実を認めることができる。

三  被告牧山の責任

1  請求原因2(二)(被告牧山の責任)については、当事者間に争いがない。

2  従つて、被告牧山は、原告らに対し、民法七〇九条に基づき、後記の損害を賠償する責任がある。

四  被告平野の責任について

1  本件事故発生当時、被告平野が被告日本航運の従業員であつたこと、被告日本航運が日本航運車を保有していたこと、被告平野が、本件交差点直前の牧山道路右側の駐車禁止場所に日本航運車を同道路中央近くまでふさぐ形で駐車させたことは、原告らと被告平野間に争いがない。

2  右1の事実、請求原因2の事実に甲第三号証の一ないし一七及び被告平野本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

(一)  被告日本航運は、平成三年四月一〇日、日本航運有限会社(以下「組織変更前会社」という。)を組織変更して設立した株式会社で、資本金は一〇〇〇万円、営業目的は一般貨物自動車運送事業、貨物取扱事業及び右事実に付帯する一切の事業となつている。組織変更前会社は、昭和五四年四月に設立した有限会社で、本件事故当時、本社が市川市欠真間一丁目一〇番一一号にあり、他に事業所が市川市原木に、営業所が市川市富浜に、倉庫が船橋市西浦に、車庫が市川市河原にある。同社は、従業員は約三〇名、パート社員数名であり、四トン車八台、二トン車一二台を保有し、航空貨物の運送のみを取り扱つていた。組織変更前会社では、運転手は、配送業務が終了すると、一度事業所に戻り、翌日配送分の荷物を積込み、事業所の点呼を受け、その後、車庫に車両を納めた後、各自帰宅することになつていた。また、車庫に通勤できない従業員については、会社の負担で各自の自宅近くに受持ち車両を駐車させる駐車場を借りて貰い、仕事の都合で受持ち車両に乗車して帰宅することを認めていた。車庫には、六台だけ駐車しており、残り一四台は各自が自宅まで乗車して帰宅することが多かつた。

(二)  被告平野は、組織変更前会社に昭和六二年九月三日に運転手として採用され、自宅から車庫に出勤し、自分の受持車両である日本航運車に乗車して、主に千葉県内及び都内への貨物の配送業務に従事していた。日本航運車は、三菱二トン積みの事業用貨物自動車で、長さ六・一五メートル、幅一・九九メートル、高さ三・〇三メートルである。

(三)  被告平野は、勤務先の通勤には自己の普通乗用自動車を使い、自宅前の駐車場を借りていた。被告平野は、昭和六二年一一月七日、自分の自動車がパンクしたので、自転車で出勤し、帰宅時間の同日五時五〇分ころ、雨が降つていたので、自転車では濡れてしまうので、市川市河原の車庫に戻らずに市川市原木の営業所からそのまま日本航運に乗車して、自宅に戻つた。

(四)  被告平野は、日本航運車の駐車場所を探したが、空き地等もなく、道路には他にも駐車車両が多く駐車する場所が見つからなかつたので、午後六時三〇分ころ、十字路交差点の角の所でまずいなと思つたが、駐車させた。翌日午前一一時ころ、姉夫婦が車で迎えに来たので、右駐車車両をそのままにして、これに乗車して実家の兄の子供の七・五・三のお祝いに出掛けた。同日午後七時三〇分ころ、実家に社長の矢島一徳から本件事故の発生を知らされ、同社長と一緒に同日午後八時〇五分葛南警察署に出頭した。同警察署の担当者は、被告平野が駐車していた道路が駐車禁止(二四時間)の指定がなされていたことから、道路交通法違反(同法四五条、駐車違反)と認定し、交通反則切符で告知した。

(五)  日本航運車が駐車していた道路(牧山道路)の幅員は三・五メートルであり、牧山車は本件事故現場直前に駐車していた日本航運車を避けて牧山道路の中央付近を進行して、本件交差点で孝一車と衝突した。本件事故は、主として亡孝一が本件交差点に進入するに際して、日本航運車が駐車しており、左側の見通しが極めて悪いのに、右交差点の直前に停止して、安全を確認して進行すべき注意を怠つて進行した過失と、被告牧山が本件交差点に進入するに際して、日本航運車が駐車しており、極めて右側の見通しが悪いのに、右交差点の直前において、安全を確認して進行すべき注意を怠つて進行した過失が競合して発生したものであるが、日本航運車の違法駐車による被告平野の過失もその原因の一つとなつた。

3  右認定事実によれば、本件事故の主たる原因は、被告牧山と亡孝一の双方の過失により発生したものであるが、日本航運車の駐車位置(道路中央近くまでふさぐ形で駐車させていた)、牧山道路から本件交差点に進入する際の日本航運車の見通しの妨害状況、孝一道路から本件交差点に進入する際の日本航運車の見通しの妨害状況等を勘案すると、本件事故の発生については被告平野の違法駐車もその一つの原因となつたものであり、結果発生に寄与した割合は二割を下回るものではないと認められるから、同被告は本件事故により発生した損害につき、二割相当額を賠償すべき責任があると認めのが相当である。

従つて、被告平野は、民法七〇九条に基づき、本件事故により発生した損害のうち、その二割相当額を賠償する責任がある。

五  被告日本航運の責任について

1  本件事故当時、被告日本航運が、被告平野の雇い主であり、日本航運車の保有者であつたことは、原告らと被告日本航運間に争いがなく、右事実によれば、被告日本航運は、日本航運車の運行供用者として、自賠法三条に基づき、日本航運車の運行によつて生じた人的損害を賠償する責任がある。

2  そこで、以下、本件事故が日本航運車の運行による事故に当たるかどうかについて検討する。

右四で認定した事実によれば、本件事故当時、組織変更前会社では、運転手は、配送業務が終了すると、一度事業所に戻り、翌日配送分の荷物を積込み、事業所で点呼を受け、その後、車庫に車両を納めた後、各自帰宅することになつていたが、車庫に通勤できない従業員については、会社の負担で各運転手の自宅近くに受持ち車両を駐車させる駐車場を借りて貰い、仕事の都合で受持ち車両に乗車して帰宅することを認めており、車庫には、六台だけ駐車しており、残り一四台は各自自宅まで乗車して帰宅することが多かつたというのであり、また、本件事故発生の前日、被告平野が配送業務が終了後、一度事業所に戻り、翌々日(翌日が日曜日のため)配送分の荷物を積込み、事業所で点呼を受け、その後、車庫に納めずに自宅近くまで乗車して帰り、自分が借りていた駐車場は自分使用の車を駐車させており、駐車できず、極めて危険性の高い駐車禁止場所に違法駐車をし、翌日も右違法駐車を継続していたところ、本件事故が発生したというのであるから、本件事故当時の日本航運車の駐車は、組織変更前会社の業務である貨物運送業務の一環をなすものであつて、その前後の走行と連続性があり、本件のような交差点の直前での駐車禁止場所における違法駐車は、走行中の自動車に劣らない危険性を有することがあることを勘案すると、日本航運車の本件駐車は運行に当たると解するのが相当である。

そして、四で認定した事実によれば、牧山車が本件事故現場付近に駐車していた日本航運車を避けて本件道路の中央付近を進行したために、孝一車と衝突したが、本件違法駐車も本件事故の原因の一つになつているということができるから、本件事故と日本航運車の違法駐車との間には事実的因果関係が認められ、また、前記認定のとおり、日本航運車の駐車の態様は交差点直前の駐車禁止場所に道路中央近くまでふさぐ形で長時間駐車したという極めて危険性の高い違法駐車の事案であること等を勘案すると、日本航運車の違法駐車には、交通事故を誘発する危険性があり、本件事故は右危険が現実化したものということができ、右駐車と本件事故との間には相当因果関係が認められるから、本件事故は日本航運車の右運行(違法駐車)もその一つの原因となつたものであり、本件交通事故という結果発生に寄与した割合は二割を下回るものではないと認められるから、組織変更前会社は本件事故により発生した損害につき、二割相当額を賠償すべき責任がある。

従つて、組織変更前会社を組織変更して成立した被告日本航運は、自賠法三条に基づき、本件事故による損害のうち、その二割相当額を賠償する責任がある。

六  被告東京海上保険の責任について

被告東京海上保険が被告日本航運と、日本航運車について自賠責保険を締結していたことは、原告と被告東京海上保険間において争いがない。そして被告日本航運が日本航運車の運行供用者として自賠法三条に基づき、原告らに対し、本件事故による損害のうち、その二割相当額を賠償する責任があることは、前記のとおりである。

従つて、被告東京海上保険は、自賠法一六条に基づき、被告日本航運が原告らに対し負う損害額のうち、二六二〇万円の限度において損害賠償の支払いをなすべき義務がある。

七  亡孝一の受傷及び死亡

乙第一五号証ないし第三三号証の各一、二及び弁論全趣旨によれば、亡孝一は本件事故により、頭蓋骨骨折、急性硬膜外血腫、脳挫傷の傷害を受け、遷延性高度意識障害(いわゆる植物状態)のまま、昭和六二年一一月八日から八九七日間入院し、平成二年四月二二日、死亡したことが認められる。

八  損害

原告らの損害賠償額を算定するには、まず損害の全額を算定し、その後に過失相殺を行い、更に既払金の控除を行わなければならないので、以下損害の全額を算定する。

1  治療費 一六一三万〇九五四円

(一)  訴外保険組合に対する調査嘱託の結果、乙第四五号証の一、二によれば、訴外組合が負担した亡孝一の治療費は、一三八五万六三一九円であることが認められる。

(二)  乙第一五号証ないし第三三号証の各一、二及び弁論全趣旨によれば、大東京保険が、亡孝一の本人負担部分として直接医療機関に支払つた金額は、一六三万六七五五円であることが認められる。

(三)  乙第三四号証ないし第四四号証及び弁論全趣旨によれば、亡孝一が本人負担分として、医療機関に支払つた金額は、六三万七八八〇円であることが認められる。

(四)  右によれば、亡孝一の治療費の総額は、一六一三万〇九五四円であることが認められる。

2  付添看護費 九三〇万三九三六円

甲第一一号証の一ないし七二、第一三号の二ないし五、原告達子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、亡孝一の付添看護費の総額は、九三〇万三九三六円であることが認められる。

3  患者輸送費 一三万二五〇〇円

甲第一四号証の一ないし四及び弁論の全趣旨によれば、亡孝一の患者輸送費の総額は、一三万二五〇〇円であることが認められる。

4  入院雑費 八九万七〇〇〇円

前記認定によると、亡孝一は本件事故により、頭蓋骨骨折、急性硬膜外血腫、脳挫傷の傷害を受け、遷延性高度意識障害(いわゆる植物状態)のまま、昭和六二年一一月八日から死亡した平成二年四月二二日までの八九七日間入院したところ、弁論の全趣旨によれば、右入院期間中に、平均して一日当たり一〇〇〇円程度の雑費を要し、合計八九万七〇〇〇円を下らない雑費を要したものと推認することができる。

5  休業損害 一六七七万二七一一円

(一)  亡孝一の休業損害については、これを直接的確に算定する証拠はないが、甲第五号証の一ないし四の昭和六二年度から平成二年度迄の給与明細金額を一二倍して賞与を除く各年度の金額を算出すると、次のとおりとなる。

(1) 昭和六二年度 六一八万四四四〇円

515,370円×12=6,184,440円

(2) 昭和六三年度 六四三万一二八〇円

535,940円×12=6,431,280円

(3) 平成元年度 六六二万三四〇〇円

551,950円×12=6,623,400円

(4) 平成二年度 六七二万二四〇〇円

560,200円×12=6,722,400円

(二)  亡孝一の賞与については、これを直接的確に算定する証拠はないので、甲第一号証の九の昭和六二年度の源泉徴収票の金額九四四万一一五二円から、右(一)の(1)の六一八万四四四〇円を控除して、賞与相当金額を算出すると、三二五万六七一二円となる。昭和六三年度以降については、右賞与は増加するものと推認されるが、これを算定する証拠はないのでこれを考慮しないで算定することとする。右賞与相当額を加算すると、亡孝一の各年度の収入額は、次のとおりとなる。

(1) 昭和六三年度 九六八万七九九二円

(2) 平成元年度 九八八万〇一一二円

(3) 平成二年度 九九七万九一一二円

(三)  右(二)のうち、昭和六三年度分及び平成元年度分の合計金額一九五六万八一〇四円と平成二年度分の金額を死亡する同年四月二二日迄の一一二日間について日割計算を行つた金額三〇六万二〇八三円(円未満切捨て)を合計した二二六三万〇一八七円をもつて、休業期間中の亡孝一がうべかりし金額と認める。

そして、亡孝一が勤務先から現実に受領した金額五八五万七四七六円(訴状添付の別紙四の現実受領額の合計金額)を控除した一六七七万二七一一円をもつて、亡孝一の休業損害額であると認める。

6 逸失利益 七九五三万七一二一円

(一)  六〇歳定年時迄の逸失利益 五八五七万五一七二円

亡孝一の死亡時四八歳から定年時の六〇歳迄の逸失利益を昭和六二年の収入額九四四万一一五二円(甲第一号証の九)を基礎収入とし、生活費用控除割合を三割として算定すると、右金額となる。

一二年間のライプニツツ係数 八・八六三二

9,441,152×0.7×8.8632=58,575,172円(円未満切捨て)

(二)  退職後就労年齢六七歳迄 一三八〇万八三〇九円

亡孝一の六〇歳から六七歳迄の逸失利益を平成元年の賃金センサスの旧大・新大卒の六〇歳から六四歳迄の年収額七一四万二五〇〇円を基礎収入とし、生活費用控除割合を四割として算定すると、右金額となる。

ライプニツツ係数 三・二二二一

(一九年間のライプニツツ係数から一二年間のライプニツツ係数を控除したもの)

7,142,500×0.6×3.2221=13,808,309円(円未満切捨て)

(三)  定年時退職金 七一五万三六四〇円

亡孝一の退職金の逸失利益は、推定退職金額に年金現価表の一二年間に相応するライプニツツ現価係数〇・五五六八三七四二を乗じて算定した額から現実の受領額を控除した額とするのが相当であるところ、その金額は、右金額となる。

37,936,100円×0.55683742-13,970,600円=7,153,640円

7 葬儀費 一〇〇万円

弁論の全趣旨により、本件事故と相当因果関係のある葬儀費は、右金額であると認められる。

8 物損 〇円

原告ら主張の損害を認めるに足りる証拠はない。

9 慰藉料 二五〇〇万円

本件事故の態様、結果、本件事故時における亡孝一の年齢、原告らと亡孝一の身分関係、その他本件訴訟の審理に顕れた一切の事情を考慮すると、亡孝一と原告らが受けた精神的苦痛を慰藉するには、全部で二五〇〇万円をもつて相当と認める。

10 右損害合計 一億四八七七万四二二二円

九  過失相殺

前記の交通事故の態様によれば、被告牧山と亡孝一との本件事故における過失割合は六〇対四〇であると認めるのが相当であるから、これを斟酌して右損害額から四〇パーセントを減額すると、この過失相殺後の損害残額は八九二六万四五三三円(円未満切捨て)となる。

一〇  損害の填補

(一)  原告らが、牧山車に付保されていた自賠責保険から二五〇〇万円及び大東京保険から一一四七万二六九五円、合計三六四七万二六九五円を受領したことは、原告らと被告ら間に争いがない。

(二)  乙第一五号証ないし第三三号証の各一、二、第四五号証の一、二、訴外保険組合に対する調査嘱託の結果及び弁論全趣旨によれば、右以外に次の損害の填補の事実が認められる。

(1)  訴外保険組合が負担した治療費は、一三八五万六三一九円である。

(2)  大東京保険が、治療費用の亡孝一本人負担部分として直接当該医療機関に支払つた金額は、一六三万六七五五円である。

(3)  訴外保険組合が負担した傷病手当金及び付加給付金は、一〇八四万四〇七二円である。

(三)  右小計額は、六二八〇万九八四一円となるので、これを右九の損害残額から控除すると、損害残額は二六四五万四六九二円となる。

一一  弁護士費用

原告らが本件訴訟の提起及び追行を原告ら代理人に委任したことは本件記録により明らかであるところ、訴訟の難易、認容額等を考慮すれば、弁護士費用として二〇〇万円が本件事故と相当因果関係のある原告らの損害として認められる。

右によれば、損害残額は二八四五万四六九二円となるので、原告らの損害額はそれぞれ一四二二万七三四六円となる。

一二  結論

以上のとおりであるから、原告らの請求は、被告らに対し、左記の金員の支払いを求める限度において理由があるから、これを認容することとし、その余の請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(一)  被告牧山に対し、民法七〇九条に基づく損害賠償として、原告らそれぞれに対し、一四二二万七三四六円及びこれらに対する亡孝一死亡の日である平成二年四月二二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金(損害額全額)

(二)  被告平野に対し、民法七〇九条に基づく損害賠償として、被告日本航運に対し、自賠法三条に基づく損害賠償として、被告東京海上保険に対し、自賠法一六条に基づく損害賠償として、原告らそれぞれに対し、二八四万五四六九円(円未満切捨て、右一四二二万七三四六円の二割相当額)及びこれらに対する亡孝一死亡の日である平成二年四月二二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金

(裁判官 清水信雄)

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